古傷に付き合う
- 飯島朋彦 
- 10月21日
- 読了時間: 3分
古いイセキトラクターの速度操作レバーは、金属疲労のせいでもう2回ほど中で折れてしまい、その都度、臼田のノーベルさんで溶接してもらっている。
前回折れたときに、部品が出てくるような代物じゃないし、もう次はないかもしれん旨の注意を受けていて、シフトチェンジの度に少しハラハラする。うちのトラクターは、古いせいか、シフトチェンジの度に、若干レバーに嫌な振動が来る。この蓄積がいつか致命傷になるのがわかっている状況だ。ちなみにトラクターの場合、ちゃんと停まってからシフトチェンジしないとすごい抵抗があって、レバーにかなり負荷がかかる。急いでいるときなどに、停まりきる手前でガチャっと弄りたくなってしまうのが人情で、クラッチ外せばシフトできる乗用車とは構造に違いがある。
今月の月初めに買い替えることになった古いノートPCも開閉部側の右隅、キーボード方面が、おそらくネジがバカになって圧着できなくなっていたのだろう、開閉時の力のかかり方がテコの原理で増幅し浮いてしまい、少しづつその浮き上がりというか、そり上がりというかが進行していって、ある時まず、画面がブラックアウトした。慌てて他のモニターに繋ぐと中身が無事なことがわかって、でもそれだと当然不便なのでどしたものかほい。グイグイ浮き上がりを押さえつけたら、モニター復活。叩いたら治った的なあれで接触不良な感じ。ゴリラテープでその反り上がりをむりに抑えつつ、開閉時には右隅を必ず押さえつけて、これ以上、反り上げが進行せぬ様、キツく我が脳内にこの動作を忘れぬ様申し付け、ノートPCどのとのお付き合いに関するセットリストの最上段に書き込んでいた。ちなみにリストのほかの項目には、キーボードはなるべく優しく打たんとバカになる。としか書いてないけれど。
うちのプレハブ冷蔵庫も10年目を迎えて開閉部の嚙み合わせが微妙にずれてきている感があり、気持ちドアを持ち上げ気味にして操作しないと締まりがちょっと怖い。
スパイダーモアはエンジンのかかりが悪く、チョークの位置に工夫がいる。
チューブ回収機のノブのプラスチックカバーが完全にイカれているので、無くさないように気を付けて運ぶ。
コンテナの真ん中に座るとデブ発見器になる。
etc...
こういうリストは微増していくものなのだろう、資材は劣化し、痛い目を見る経験は蓄積され、肉体も劣化していく。
うちの場合、生産は複雑化し、経験とともに気を付けたいポイントは増えていき、自分の中に蓄積されたremember to doリストはどこまで伝えるべきなのか悩む。その小さいことが気になるのは、確かに人間が小さいからだという罵倒は受け入れるがしかし、痛い目にあっているからなのだ。けれども、そういえば痛い目に合うまでは腑に落ちなかったという真理も存在している気がする。その一方で思い込んでいる事柄もあり、稀人来りて破壊してもらうこともあり、リストは日々微妙に書き換えられつつ、忘却に晒されてサラサラと砂の城が流れるように崩壊もしている。
冷え込む朝。
学生のころ左巻き込みでひびの入った右足小指が疼く。
子供たちが朝食を食べている隙に一服していると冴えた空気の向こうで野焼きの煙が冷えた風にゆたりゆたりと伸びて消えていく。
「けむりが、こう、ね。」
あれはなんのセリフだったか。
そうだ
ドライブインカリフォルニア
松尾スズキ。
けむりが、こう、のぼって、消えていった。
2025/10/21






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